児玉研究所

研究紹介

 脳のほぼ中心に存在する「松果体(しょうかたい)」から分泌される「メラトニン」(ホルモン)は、夜中、ぐっすり安眠して、リラックスできたときに多量に分泌されます。つまり、安眠できず、緊張している人には分泌されにくいということです。あるいは、メラトニンの分泌が悪い人は、安眠もリラックスもしにくい状態が続いているといってよいでしょう。
つまり、歯の噛み合わせを正すことで、松果体からのメラトニンの分泌を促し、さまざまな症状の改善に効果を発揮するというしくみが推測できるのです。
このことを実証するために、わたしは次のような臨床研究を行いました。協力していただいたのは、噛み合わせが悪いため、頭痛や肩こり、不眠、高血圧などの不定愁訴に悩まされ、わたしの医院に通っている患者さん27人(男性6人、女性21人、平均年齢44・3歳)です。
協力していただいた患者さん27人には、研究の目的、内容、方法を充分に説明したうえで、理解し、同意を得て、臨床研究に加わっていただきました。患者さん27人にスプリントによる治療を行いましたが、スプリント使用前に採血して血液中のメラトニンの量を測定しておきました。そして、スプリントを使用して40日後に、もう一度採血して血液中のメラトニンの量を測定し、歯の噛み合わせの治療の前後で血液中のメラトニンの量を比較したのです。前に述べたとおり、メラトニンは夜間に増えます。そこで、宿泊可能な患者さんにお願いして、夜間に採血を行ないました。具体的には、わたしの歯科医院や近くのホテルに泊まっていただき、安静状態を保ち夜間の0時から2時までの間に採血を行いました。深夜に協力いただいた人は17人で、残り10人は昼間のみの採血でした。

 

(2)臨床データの蓄積・集計結果
臨床からは予測どおりの結果が得られました(図2-1参照)。夜間に採血した17人のうち、16人のメラトニン量が増えていたのです。血液中のメラトニンの量は、1日の中でも変動が大きいので、いつ測定するかにより違った結果が出ます。今回、夜間に採血した患者さんの治療前のメラトニンの量については、平均約13ピコグラムでした。
ところが、スプリントを40日間装着したあとの平均値は38ピコグラムに増加しました。噛み合わせを正しただけで、約300パーセントもメラトニンが増えたことになります。17人のうち、1人だけメラトニンの量が減りました。この患者さんは毎年、花粉症に悩まされている人で、スプリントによる治療を始めてからしばらくしたら、花粉症が始まったのです。そのために、メラトニンの量が減ったのではないかと推測しています。
さらに、この16人のメラトニンの増加が、本当にスプリントによる歯の噛み合わせを正したことによるのかどうかを確認するために、噛み合わせの治療を行なわない17人の「コントロール群」(比較対照者)についても、血液中のメラトニン量を2回、40日の期間をおいて測定しました(図2-2参照)。測定の結果、1回目と2回目でのメラトニンの量に明らかな差は認められませんでした。
したがってここでも、スプリントによって歯の噛み合わせを正せば、メラトニンが増えるということがはっきり実証されたのです。

 

(3)不定愁訴の改善
歯の噛み合わせの異状とともに、多くの患者さんがさまざまな症状に悩まされていましたが、スプリントを使って噛み合わせを調整したところ、それらの症状も大きく改善しました。睡眠障害は17人中15人が改善し、よく眠れるようになりました。頭痛は21人中18人、肩こりは23人中14人、起床時の疲労感は21人中19人、高血圧は7人中6人に明確な改善がみられました(表2-1、2-2参照)。
以上の実験から、不正な噛み合わせを調整をすることで、松果体からのメラトニンの量が増え、頭痛や肩こり、不眠、高血圧などの症状が改善されることが明らかになったのです。さらに強調しておきたいことは、従来の研究の多くが、主に人工的に生成された外因性メラトニンを用いたものであるのに対して、わたしの研究が対象にしたのは体内でつくられる内因性メラトニンだということです。その意味で、この研究は、歯科領域にとどまらず、内分泌系の分野においても大きな意義を持つものと思われます。
※注 不定愁訴の臨床症状には以下のようなものがあります。頭痛、肩こり、首のこり、背部痛、寝起きの疲労感、睡眠状態(入眠困難、中途覚醒、多夢)、舌痛(ぜつつう)、味覚障害、吐き気、歯ぎしり、歯の食いしばり、開口障害、四肢のしびれ、関節痛、腰痛、血圧、耳鳴り・難聴、めまい、便秘、易(い)疲労(ひろう)、生理痛・生理不順、生理前症候群、ストレス、アレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症)など。
これらの症状があり(ときに複合的に発生)、何となく体調が悪いという自覚があるものの、検査を行ってもその原因がわからない状態をいいます。