児玉研究所

メッセージ

 これまで歯科とは関係ないと思われていた症状が、じつは歯科治療と深い関係があることを、ほとんどの方はご存知ないのではないかと思います。頭痛・不眠・肩こりなどの不定(ふてい)愁訴(しゅうそ)(はっきりとした原因がないのに、からだの不調を訴えること)を抱えている患者さんの多くは、まず内科、整形外科、心療内科などの症状に関連する科を受診されるでしょう。しかし、まさか、それらの症状の原因が歯科と深く関係するとは思いもよらないからです。
 ところが、これらの不定愁訴は歯科の領域と密接にかかわっているのです。わたしども児玉歯科医院(東京都江戸川区)では、この多くのケースに対して、噛み合わせ治療を行うことによって改善してきました。たとえば、頭痛を訴える患者さんのケースにおいては、器質的に異状がない場合、「スプリント」(正式名は「咬合挙上(こうごうきょじょう)副子(ふくし)」)という器具を上下の歯の間に挟み、噛み合わせを調整することによって、ほとんどの患者さんは、その症状が2~3日で改善されていきます。長年、さまざまな症状に悩み苦しみ、あちこちの病院を転々として、ようやく当院にたどりつき、「噛み合わせ治療のおかげで人生が変わった」という患者さんの喜びの声をこれまで何度も聞きました。
 今では、本院を訪れる患者さんの5割がムシ歯などの治療ではなく不定愁訴の患者さんです。
 噛み合わせの改善が、アトピー性皮膚炎、頭痛、不眠、肩こり、めまいなど、さまざまな不定愁訴やストレス症状に効果を持つことは、医療現場ではすでに経験的に知られています。しかしながら、なぜ噛み合わせ治療が効果的なのか、歯科医の世界ではこれまではっきりと証明されていませんでした。
 そこで、わたしがその謎を明らかにするために注目したのが、「メラトニン」という脳内ホルモンでした。メラトニンがさまざまな疾病の改善に有効であることは、これまでの研究成果からも明らかでありますが、このメラトニン投与による症状の改善と歯の噛み合わせ調整による治療効果が酷似していることに気づいたのです。噛み合わせ治療により、そのメラトニンの分泌が活性化するのではないかと考え、その仮説を、実際に臨床研究を行うことで実証しました。
 その際に強調しておきたいのは、メラトニンにかかわる従来の国内外の研究の多くが、「外因性メラトニン」を用いたものだということです。外因性とは、薬剤や食物によって摂取されることを指し、とくに薬剤の場合、長期的服用の影響を懸念する専門家も少なくありません。それに対して、噛み合わせ治療によって活性化されるのは「内因性メラトニン」です。本来メラトニンが生体内で生成されることを考えれば、噛み合わせ治療に過剰摂取や副作用のようなリスクは一切ありません。その意味で、噛み合わせ治療が持つ臨床的可能性は従来の治療法に比べてきわめて大きいものがあるといえるわけです。