児玉研究所

ストレス

 近年、「ストレス」という言葉を耳にする機会がとくに増えてきたように思います。なんでもストレスのせいにする安易な風潮を危惧する声も聞かれますが、歯科の領域においても、ストレスの問題がもっと注目されるべきだと思います。

 ストレスとは、「他から加えられた刺激によって引き起こされた心身の歪み」のことで、精神的なものと身体的なものに大別されます。精神的ストレスとは、主に心理的・社会的なもので、職場(仕事)、学校(勉強)、家庭(家族)における不安や不満、怒りなどが原因となります。身体的ストレスは、さらに外因と内因に分けられますが、寒暑、騒音、災害、事故、病気などの環境・肉体因子から、運動、食事、睡眠などの生活因子まで、多岐にわたります。もちろん複数のストレッサー(ストレスを引き起こすもの)が存在する場合、症状が心身両面に及ぶ場合も少なくありません。

 人によってストレスの感じ方は千差万別で、「ストレス」という言葉を最初に提唱したカナダの生物学者ハンス・セリエ教授は「ほどよいストレスは人生のスパイスである」とさえ述べています。しかしこのストレスが寿命を縮めることがあるのですから、軽視はできません。

 過度のストレスが長くかかると、さまざまな症状が出てきます。とくに神経質な性格を持った人は、不安や精神的な緊張が続くと自律神経失調症、神経症、うつ病、過敏性腸症候群など、「器質神経症」とよばれる病気になりやすくなります。また、身体症状が前面に出ることも多く、片頭痛、高血圧、狭心症、不整脈、胃・十二指腸潰瘍、円形脱毛症、突発性難聴、耳鳴、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、月経異常、慢性膵炎など多岐にわたります。

 歯科で見られやすい症状は歯痛、知覚過敏、開口障害などです。ムシ歯や歯周病がないのに痛んだりしみたりする、口が開けづらい、顎(あご)がカクカク鳴る、顔面の筋肉がビクビクする顎関節の症状を自覚するときは要注意です。頭痛や肩こり、不眠、過労などを合併することも多く、診療時に開口障害や歯の圧痕(歯の食いしばりによって舌や顎の頬(きょう)粘膜(ねんまく)につく歯型)、顔の歪み(顔面神経麻痺を含む)などを認めるときは歯科治療の対象となります。

 しかし、「自覚症状があっても原因がわからない」「指摘されるまで自分の異状に気づかない」というケースも多く、血液検査・心理テストを実施するまでわからないような症例が増えてきました。

 こうしたストレスに起因する症状も、不正な歯の噛み合わせを治療し、口腔周囲筋の緊張や、血管・神経への負担を軽減して自律神経のバランスを整えますと、内分泌系や免疫系が活性化され、全体の機能が高まり改善してきます。

 歯科医も単に歯だけ診ればよいというわけにはいかなくなってきました。わたしは、常に歯の噛み合わせと全身のかかわりを考慮しながら治療方針を組み立てていますが、患者さんたちには「健康管理には、上手なストレス発散が不可欠」と指導しています。