噛みしめ
噛みしめとは、下顎(アゴ)をほとんど動かさずに上下の歯を強く食いしばる動作をいいます。歯ぎしりが夜間睡眠中に多いのに対し、噛みしめは何かに夢中になっているときや緊張したときなど昼夜問わずに認められますが、歯ぎしりのように音を発したり、歯の咬耗をともなわないため周囲に気づかれにくいという特徴があります。
日中は本人の癖として自覚され、注意することが可能ですが、睡眠中の場合は気づかれずに顎関節や咀嚼筋を痛めることもあります。
噛みしめ動作の多くは無意識に行われますが、急な感情の変化や精神的なストレスを受けた場合やスポーツなどでの急激な力の発生時、あるいは緊急事態にともなう全身的な筋の緊張時などに生じる場合と、外部からの特別な刺激や環境の変化がないにもかかわらず、本人も気づかぬまま長時間にわたって噛みしめる「習慣性噛みしめ」とがあります。両者の発生メカニズムは同一のもの推察されていますが、前者は一時的な生体反応であり、生理的な現象として理解されているのに対し、後者は口腔習癖のひとつとしての機能異常とみなされる点で大きな違いがあります。
睡眠中の脳波記録の解析から、ストレスの多い日や疲労の激しい日には夜間睡眠中の噛みしめが顕著に増加することが多く、逆にストレスや疲労の少ない日は噛みしめがはっきり減少することが報告されています。
噛みしめの原因は、心理的な要因と局所の要因に分けられますが、心理的要因としては抑うつ、不安、悲しみ、恐れ、怒りなどの因子があげられますが、試験を控えた学生や常に精神的緊張を要求される仕事をしている人、心身両面のストレスが加わりやすい運動選手、生理前の女性、刑務所の囚人などは、とくに生じやすいといわれています。
これに歯の噛み合わせの異状や不適切な歯の修復物や充填物などの局所因子が加わると、さらに起こりやすくなります。噛みしめの緩和にはスプリントの装着が広く行われています。
スプリントにはいくつか種類がありますが、私はアクリルレジンという透明な合成樹脂のものを使用しています。これは入れ歯や子供の歯の矯正装置としても使用されます。
スプリントを作製する前に、かみ合わせに異常があるかどうか確認してから、患者さんの歯の状態に合わせてスプリントの形を調整します。調整には約1週間かかります。各自に調整済みのスプリントを上の歯と下の歯の間に挟むことによって、かみ合わせを正常な状態に保ち、歯のくいしばりや、歯ぎしりなどによる筋肉の緊張をやわらげることができます。スプリントは主に睡眠中に使用します。熟睡できるようになるので、脳内ホルモン(メラトニン)の分泌が促進され、体調が良くなります。