児玉研究所

舌痛

 舌痛症とは、舌の尖端や側縁部などに、ピリピリ、ヒリヒリといった表在性の持続する自発痛(傷がないのに痛みを感じる)を訴えるものです。時には燃えるような、刺すような局所の痛みを訴える例もありますが、器質的な原因が明らかな場合とそうでない場合とがあります。

 舌痛の原因はさまざまですが、良く知られているものとして、アフタ性口内炎があります。みなさんも、小円形で周囲が赤く腫れた白黄色の潰瘍に悩まされた経験がおありのことでしょう。カビの一種であるカンジタ、あるいはヘルペスなどウィルスの感染でも舌痛を訴えることがあります。

 舌痛症など口腔内疼痛には唾液の分泌低下による口腔内乾燥が関与することが知られており、糖尿病やシェーグレン症候群などが有名です。これらの症例では唾液不足によって保湿性が低下するために粘膜上皮が弱くなり、微小な傷がつきやすい状態にあると考えられています。

 また、わたしたちが内服している薬のなかにも唾液分泌を抑えるものがたくさんありますし、副作用で舌痛をきたす薬も知られています。唾液の分泌は組織保護力や創傷治癒力だけでなく、咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)など消化吸収力にも影響を及ぼします。ビタミンC、ビタミンB2、ビタミンB12、鉄、亜鉛などの不足による舌痛もありますので、栄養の摂取にも配慮が必要です。

 そのほか、金属アレルギーや神経痛も一因であり、齲蝕(ムシ歯)の処置や義歯の装着・修復など、歯科治療のあとから訴えが出現することも経験しますので、わたしたちは日頃から素材を吟味するとともに、修復物の研磨など粘膜の保護を徹底して行うように心がけています。

 もちろん、舌痛の原因がはっきりしない場合も少なくありません。口腔内に特別な所見がないにもかかわらず痛みを訴え、三叉(さんさ)神経や舌(ぜつ)咽(いん)神経など神経系にも障害が認められない場合は心因性疾痛が疑われます。この場合痛みに日内変動があり、食事中や会話中は痛みを感じず、むしろ食事や会話のあとに痛みが出やすいといった特徴があります。

 歯科心身症の領域では口臭症(自臭症)に次いで頻度が高いものですが、更年期以降の女性に多いとされています。舌痛は内科、耳鼻科、神経科なども関連しますが、まずは歯科を受診して相談するのが賢明な方法だと思います。