総義歯
介護保険の制度が導入され、新しい医療制度の柱の一つになりつつあります。歯科医師会でも老人医療をサポートすべく、八十歳で二十本の自分の歯を残す「8020運動」をスローガンにかかげて活動を進めていますが、残念なことに、自分の歯が全くない「総入れ歯(総義歯)」の人も決して少なくありません。
義歯を希望されて来院された患者さんが、異口同音に質問されるのが「保険の義歯と自費の義歯は、どこが違うのですか?」ということです。
両者を単に「素質」の違いと思っている方も多いのですが、一口で述べるなら、洋服のイージーオーダーとオーダーメイドの違いがあります。
すなわち、保険の義歯は歯形を元に義歯を製作し噛み具合を調整した後、見た目にも配慮しつつ装着します。およそ四回の工程、約一ヶ月でできあがります。
早くて簡単ですが、どんなに上手に作っても装着後にズレたり、頭痛、肩こり、不眠、めまい、高血圧、手足のしびれなどの不具合を生じることがあります。
これは、歯の無い状態が長く続いて体のバランスが崩れているからですが、事前に予想するには限界があります。
一方、自費の義歯は細かく長い工程でつくられます。
私は、まず治療用の義歯を作製し、これを用いて体のゆがみ(顎関節の位置のずれや噛み合わせの高さなど)を半年から一年、時間をかけて正していくことをおすすめします。
時間をかけて体調を整え変化を見極めることで、不快事項を軽減・解消でき、また一番適切と思われる時点で新たに義歯を作製・装着するため、咀嚼力がつくだけでなく、発音も明瞭となり、顔つきも若々しく、精神活動も向上します。
老後のQOL(生活の質)を確保するためにも主治医とよく相談し、納得できる義歯を製作してください。